暮らしごと、風景になる島

湖に浮かぶ、たったひとつの集落——。
ここ沖島(おきしま)は、日本で唯一「淡水湖に人が暮らす有人島」。
車もコンビニもない、でもそこには確かに息づく人の暮らしがあります。
観光地でもリゾートでもない、"人の営み"に触れるための旅。
静かな水音とともに、あなたの感覚が少しずつほどけていく島時間へ。

湖に浮かぶ、静かな暮らしの島へ

滋賀県・近江八幡市。堀切港から船に揺られることおよそ10分。
目の前に現れるのは、琵琶湖最大の島——沖島(おきしま)。
ここは、日本で唯一の「淡水湖に人が暮らす有人島」。
島に車は一台もありません。通学も、通勤も、買い物も、すべて船。
それが当たり前の日常として、ここにあります。
観光地というより、「人が暮らす場所」。
訪れる者は、その静かな営みに、そっと足を踏み入れることになります。

湖とともに生きる 変わらぬ営み

この島に根を張る人々の多くは、漁師の家系。
琵琶湖の恵みを受け、代々受け継がれる沖島独自の漁法で、スジエビやフナを獲り続けています。
港には漁に使う三輪車が並び、干された漁網が湖風に揺れる。
それは、この島の変わらない風景。

「なぜ、この島に住み続けるのか?」
そう尋ねると、ある島の方がぽつりと教えてくれました。
「昔からここにいるし、私たちにとってはこれが当たり前なんよ。
外に出て行った人も多いけど、ここでしか味わえない時間がある。
湖の音、朝焼けの色、玄関先で鳴く猫たち——
そういう全部が、島で生きることの一部なんよ。」
ゆっくりと、けれど確かに刻まれる時間。
ここには、便利さと引き換えに失われてしまった、自然との調和があります。

小さな島の、豊かな時間

沖島に「目玉となる観光名所」は特にないのかもしれません。
けれど、島そのものが、かけがえのない風景だと感じました。
これは行った人しか味わえないものだと思います。
家と家の間に続く細い路地。
畑を手入れする女性たちの穏やかな姿。
通りを三輪車で通りかかるたびに交わされる、島人同士の挨拶。
ここでは、誰が島の人で、誰が訪れた人なのか、すぐにわかると言います。
それほどまでに、この小さなコミュニティは、人と人とのつながりにあふれています。
喫茶店で一休みするのも、この島ならではの楽しみのひとつ。
手作りのソフトクリームやコーヒーを味わいながら、島の空気に包まれてみてください。

移ろいゆく時間と、島のこれから

少子高齢化が進むこの島にも、最近は少しずつ変化の兆しがあります。
画家や新たな漁師、ものづくりに携わる移住者たちが、島に新しい息吹をもたらしています。
ゴミの回収は船で行われ、木材などは自然に返す工夫も。
ここでの暮らしは、自然と向き合い、共に生きる知恵に満ちています。

春には桜が咲き誇り、1時間もあれば島の概要を体験できるでしょう。
夏には島の人ならではの飛び込みスポットなどがあり、釣りを目的に訪れる観光客もいるそうです。
島人の日常や、この場所に流れる静かな時間を感じる瞬間が、いくつもあります。

「人の暮らしに触れる旅」という選択

足早に通り過ぎるのではなく、そっと耳をすませる。
湖の音、風にそよぐ網の音、三輪車が通り過ぎる音——
そのすべてが、沖島という場所の物語です。

ここは、訪れる人に「どうか大切に歩んでほしい」と教えてくれる島。
消費される観光ではなく、人の暮らしに触れる旅。
そんな時間を、ぜひ味わってみてください。