日常が旅になる場所

静かな湖面に心を映し、祈りの地に身を委ねる。
ここ近江八幡では、水のある風景が人の暮らしと深く結びつき、どこか懐かしく、そして新しい旅の感覚を呼び起こしてくれます。
沖島からはじまり、湖上に佇む伊崎寺、地元の恵みが集まるラ・コリーナ、歴史が息づく八幡堀と日牟禮八幡宮、そして一日の終わりを静かに包む西の湖へ。
見どころだけを追いかけるのではなく、「感じる旅」を紡ぐ──そんな時間を、この町は静かに差し出してくれました。

湖と祈りの聖地へ 伊崎寺の霊性

以前に記した沖島から戻り、船着き場の波音が背中に遠のいてゆく頃、視線の先に現れるのは、琵琶湖の岬に張り出すように佇む伊崎寺(いさきじ)。
ここは、ただの寺ではありません。
湖を望む断崖に建てられたお寺は、訪れる者の心に強く訴えかけてるような気がした。
出迎不動の凛とした姿に迎えられ、さらに奥へと足を進めると、湖面に突き出すように建つ棹飛び堂(さおとびどう)が現れてきます。

古来より続く儀式「棹飛び」は、この場所の神聖性を象徴する行いです。
高所から湖へと身を投げるその姿は、「水に飛び込むことで身を清める」という滋賀ならではの宗教観を体現しているようです。
ここでは、山と湖の霊性が一体となり、修験の道としての風景が今も息づいているようでした。

湖上交通の守り神としても知られる伊崎寺は、かつての旅人や漁師にとって道しるべであり、祈りの場所でもあったそうです。
建築の力強さと繊細さが共存するその姿は、自然とともに在る信仰の美を感じさせてくれました。

地元と季節の恵みに触れる ラ・コリーナ近江八幡

伊崎寺から車で街中へと戻れば、そこに広がるのはラ・コリーナ近江八幡です。
自然と建築が溶け合うこの場所では、草屋根の建物がまるで風景の一部のように佇み、田んぼの中に点在する菓子工房が、訪れる者を優しく迎えてくれます。

焼きたてのバームクーヘンの香りに包まれながら、「見る・味わう・感じる」時間がゆっくりと流れていきます。


ここでは、お菓子づくりと自然が共に息をしているようでした。
たとえば、使われる素材の多くは地元産。建物には環境への配慮が施され、持続可能な地域文化を守ってる印象を受けました。
目に映るすべてが、地域の恵みと丁寧な手仕事によってできている空間。
ラ・コリーナはただの観光施設ではなく、「未来につなぐ風景」なのだと思います。

水運のまちに息づく記憶 八幡堀と日牟禮八幡宮

かつての商人たちの夢が流れた水路、八幡堀へ。
豊臣秀次が築いたこの人工水路は、今なお白壁の土蔵や柳並木を水面に映し出し、まるで時が止まったかのような景色を見ているようです。
和舟が静かに揺れる水辺の町並みは、映画やドラマの舞台にもなっており、どこか懐かしく、それでいて誇り高い空気を纏っています。

堀を歩いた先に見えてくるのが、石畳の参道の先に佇む日牟禮八幡宮。
近江商人の信仰を集め、1800年もの歴史を誇るこの神社は、八幡山のふもとで、今も変わらぬ姿で旅人を迎えているような感じがします。
心を鎮めるには十分すぎるほどの、静かで力強い場所です。

歴史の上に立つ展望 八幡山ロープウェー

日牟禮八幡宮の裏手にはロープウェーがあり、山頂には八幡山城跡と村雲御所瑞龍寺門跡が広がっているそうです。
空と湖のあいだを抜けて、かつて戦国武将が見たであろう風景に心を重ねることができるではないでしょうか。
ここは、豊臣秀次ゆかりの地。
歴史のうねりの中に生きた者たちの気配が、山の静寂の中に今もなお残っています。
展望台から、琵琶湖、西の湖、近江八幡の街並みが一望できるこの場所へは16:00までしか行けないので。早めに行って、ゆっくりと過ごすといいでしょう。

夕暮れ 西の湖で静けさに包まれる

一日の終わりは、静けさの中で迎えたいと思い、西の湖へ。
ここは、内湖という名の通り、琵琶湖とつながるもうひとつのやさしい水辺です。
陽が傾き、湖面が茜色に染まるころで、岸辺に佇めば、水鳥の声や風の音、そして遠くに沈む太陽が心に沁みていきます。
沈没船の影が、水面にわずかにゆれている風景を見ると、この場所がずっと昔から人と共にあった証だったように感じました。
喧騒から離れた、時間の質そのものに出会える場所で、静けさとともに、旅の最後にふさわしい景色を残してくれました。

水に支えられた暮らしと祈りの町・近江八幡

沖島から始まった一日は、伊崎寺の霊性に触れ、ラ・コリーナで土地の恵みを味わい、八幡堀と神社で歴史を巡り、山と湖を見渡し、西の湖で締めくる旅となりました。
それは、「見る」旅ではなく、「感じる」旅だったと思います。
近江八幡は観光地ではなく、水に支えられた暮らしと祈りが今も息づく場所です。
人の営みと自然が調和する、忘れられない時間の中にあなたを招いてくれます。
この町に流れているのは、懐かしさと新しさが溶け合った“静かな豊かさ”です。
それは、都会では得られない、心の深呼吸のような旅なのだと思います。

暮らしに寄り添う、近江八幡の店々

この町の魅力は、観光地としての賑わいだけではありません。
暮らしのそばにある、小さなお店たちが静かにこの地の豊かさを伝えてくれています。


氵(さんずい)

お宿と併設した日本茶のお店。カウンター席のみの落ち着いた空間。
▶︎ 詳しくはこちら

三松(さんまつ)

昔ながらのお惣菜屋さん。心あたたまる味が並びます。
▶︎ 公式サイト

伊崎の棹飛び

8月に行われるお祭り。近くで見られるかどうかはくじ引きのようです。
▶︎ 詳しくはこちら

MJQ

おじいさんとおばあさんが営む珈琲豆屋さん。丁寧に焙煎された豆が並びます。
▶︎ 公式サイト

ホームピクニックストアハウス

土日のみオープンの雑貨店。二階には古道具もあります。
▶︎ Instagram

damontei(ダモンテイ)

チョコレートや、予約制のレストランも楽しめるお店。
▶︎ 公式サイト

初雪食堂

昭和の趣を感じる食堂。素朴でやさしい味わいが楽しめます。
▶︎ 食べログ

Yukiakari

器や日用品を扱う雑貨店。日本の手仕事に触れたい方にもおすすめです(八幡堀から車で約10分)。
▶︎ Instagram