アート

伝統の精密さ、永遠の彫漆工芸
彫漆犀皮文様箱(ちょうしつさいひもんようばこ)

古来より発達してきた東洋独自の分野である漆芸のなかで、もっとも手間と時間を費やす「彫漆(ちょうしつ)」技法を用いた作品である。「彫漆」とは素地の上に色漆を数十回塗り重ね、それを彫刻刀で彫って制作する技法である。発生は中国で、日本には唐物漆器として鎌倉時代に舶来し、仏具や茶道具として珍重されてきた。
本作品は犀皮(さいひ)文様が、全体に施されている。犀皮(さいひ)とは、中国の宋の時代に制作され、彫りが浅く繊細である。現在、作品は中国にはほとんど現存せず、日本に数十点ほど残っている物は大変貴重な遺品となっている。彼はわずかに残された作品から古(いにしえ)の作家に思いを馳せ、技法を独自に研究してきた。長年、文化財修復にかかわってきた彼だからこそ、生まれた作品である。朱漆(しゅうるし)と透漆(すきうるし)を交互に塗り重ねて彫りを施し、独自のデザインで表現している。構造は、身に蓋を覆い被せる形式で、身の内部を仕切る懸子(かけご)という内箱が付いている。彫漆という繊細な作業工程の中で、彼は常に緊張と希望と夢を持ちながら作品作りをしている。

アーティスト

世代を繋ぐ:人間国宝から現代の巨匠へ
松本 達弥 (まつもと たつや)

漆芸のなかの、彫漆技法を専門とし作品をつくり続けている。
香川県出身の彫漆の人間国宝作家である音丸耕堂(1898-1997)に師事。
彫漆本来の文様表現を「用の美」としてではなく「様の美」として表現している。漆芸文化財修復に従事し、国内外を問わず、文化財レスキューに取り組んでいる。デザインは、草花文様などの写実表現、幾何学文様の抽象表現、犀皮文様の屈輪表現など、数々の作品を制作。

Art Style

自然の強さから生み出される美
漆芸

漆芸とは、漆を器の表面に塗り、模様を描いて作品をつくる技術のことをいう。漆の木から出る樹液一滴が基本の材料となる。東南アジアにしかない漆の木は、素晴らしい塗料である。漆は固まると水をはじき、くさらない被膜を作る特徴から、古来より、生活の道具に用いられてきた。漆の特徴をいかし、金・銀や貝で美しく装飾し、大切な文書や衣装を入れる箱や、楽器、武士の兜や鎧などの武具にも、朱漆や黒漆が用いられた。現在では、椀や盆といった生活用品のほかに、茶道具(棗、香合)や飾箱など美しい漆芸作品がつくられている。500年前の漆器が世界中に渡っている。
松本達弥は「犀皮」(さいひ)を追求し、独自に作品を生み出している。
「犀皮」とは中国宋時代に制作された屈輪(ぐり)文様の一つである。色は黄・朱などの漆を交互に複数回塗り重ね、表面を黒、ないし茶褐色で塗ったものが多く、文様は抽象的な曲線文様を表している。日本には13-14世紀頃に「唐物漆器」としてもたらされ十数点が遺されているが中国での伝世品は殆ど無く大変貴重な遺品でもある。その洗練された曲線文様の配置、その繊細で確かな彫りの技術は今から千年ほど前の時代の技術とはとても思えないものである。
彼の作品もまた、幾千の後に誰かの目に、手に触れて生かされていくことを願い制作を続けている。

Roots

千年の匠の技、彫漆の豊かな遺産を明らかにする

彫漆とは、約千二百年前の唐時代が起源とされ日本へは、日本の禅僧により舶来された漆芸技法の一つである。朱漆だけを塗り重ねたものを堆朱(つしゅ)、黒漆だけを塗り重ねたものを堆黒(ついこく)という。現在では顔料の発達により様々な色漆が使われている。
まず、出来上がりを最初に想定し、黒、朱、黄、緑などの色漆を数十回、多いものでは百回以上も塗り重ねて厚い漆の層をつくり、この色漆の層を彫刻して立体感のある模様を彫り出していく。欲しい色層まで表面を彫り下げることにより、埋もれていた漆の色が表れ、芸術性豊かな絵模様が描き出される。塗り重ねた漆の層は厚く、文様は立体的に量感豊かに彫り出される。また、表面には、漆特有の滑らかな艶がある。

FAQ

よくあるご質問

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鎌倉彫とはどのような技法ですか?

鎌倉彫は、800年以上の歴史を持つ日本の伝統技法で、カツラやイチョウなどの木材に文様を彫り、漆を塗って仕上げる技術です。

「Water sky #1」の作品に使われている「Kenyu bleu」とは何ですか?

「Kenyu bleu」は、作者が幼少期に鎌倉の海と空、山の緑からインスピレーションを受けて作り出した、独自の青色です。

鎌倉彫はなぜ歴史的に重要性と言えるのでしょうか?

鎌倉彫は日本の歴史と文化に深く根ざしており、仏具や茶道具など多岐にわたる分野で用いられ、日本の伝統的な美意識を象徴しています。

三橋鎌幽氏の鎌倉彫における特徴について教えてください。

三橋鎌幽氏は、800年の伝統を継承しながらも、現代の感性を取り入れて独自の表現を追求し、「伝統」と「革新」を融合させた作品を創り出しています。