四国のお遍路を通じて日本の伝統を伝えます
1200年の時を超えて継承され、巡礼文化が残る四国。巡礼の聖地を訪れる人々を迎え、労ってくれる文化がごく自然に根付いています。四国遍路は、空海が四国88の礼所を旅し、修行をした巡礼の旅です。古の時代から変わらぬ日本本来の姿がそこには存在しています。自然や伝統を感じながらオーセンティックを求める旅を紹介します。
1200年前の軌跡をたどる
古来、日本の中心地から遠く離れた地とされていた四国。巡礼者が参拝し、札所を巡る四国遍路は、全長1400キロにも及ぶ、世界でも類を見ない回遊性の道のりです。
白装束を身にまとい、菅笠をかぶり、杖を持ち「お遍路さん」となって、誰もが空海の足跡をたどる体験ができます。行く先々で温かく迎えてくれる地元の人や旅人との思いがけない出会いが待っています。
お遍路で参拝する88の寺のことを札所と呼び、札所をめぐることを「打つ」といいます。始まりと終わりが円状に結ばれる循環型の巡礼路は、世界でも類を見ない日本古来の巡礼文化を残す道でもあります。
1200年前の軌跡をたどれば、四国各地の大自然、空海ゆかりの静かで穏やかな寺院を身近に感じ、地元の人々が「お遍路さん」をやさしく支えてくれます。それぞれの思いを胸に自分と向き合う心の旅、そして特別な人生体験をすることができる場所になることでしょう。
果てしなく広がる空と海
平安時代初期、香川県善通寺市で生まれた空海は、お遍路では「お大師さん」と親しみを込めて呼ばれています。四国巡礼は、修行を重ねた空海によって選ばれた88か所の寺院を回ることで功徳を積むと言われて始まりました。
平安時代初期に高知県室戸市室戸岬の洞窟に居住していたときに洞窟から見える風景は、果てしなく広がる空と海だったことから空海の法名を得、後に天皇から弘法大使という名を与えられました。
深山の聖地、高野山を開創し、真言密教を広め、教育や土木などに尽力した空海は、宗教の枠を超えて様々な分野で活躍しました。日本各地には、空海のあまたな奇跡が語り継がれています。
同行二人
旅をしていると、地元の人々の暖かい気持ちにふれることがあるでしょう。四国の人々が、遍路をする者を「お遍路さん」と呼び、尊敬し、お接待などでもてなすほど温かく迎えてくれます。四国の険しい山道や長い石段、のどかな田園地帯、波静かな海辺や最果ての岬を歩いていると、地元の人が無償でお菓子や飲み物、宿を提供してくれることに驚くかもしれません。それは「お接待」という古の時代から続くお遍路の文化です。
四国に住む人はお遍路が過酷な旅であることを知っています。そのため、お遍路さんを応援する気持ちを込めてお接待をしてくれるのです。お接待にはお遍路さんへの施しだけでなく、空海に対するお供えの意味も含まれています。お遍路さんは「同行二人(どうぎょうににん)」という考えのもと、遍路を歩くときはいつも空海と共に四国を巡っているとされています。
頭にかぶる菅笠(すげがさ)には弥勒菩薩(みろくぼさつ)と空海を表す梵字が書かれ、白衣(びゃくえ)にも「同行二人」「南無大師遍照金剛(なむだいしへんじょうこんごう)」と書かれています。道中を見守ってくれる存在を感じることができるからこそ、長い旅も乗り越えられることができるのです。
そんな長い道のりの始まりとなる一番札所が渦潮の町、徳島県鳴門市にある霊山寺(りょうざんじ)です。弘仁6年(815年)に空海により、四国の東北の角にある鳴門市を発心点として、この霊山寺を四国八十八か所霊場の一番札所に定めました。多くの「お遍路さん」達が巡礼の第一歩をここから踏み出しました。
空海は、この地で人間界の88の煩悩を浄化し、また命あるものすべてと自らの厄難を払って、心身の救済ができる霊場を開こうと37日間の修法をしました。
日本古来の巡礼文化を残す道をぜひ、歩いて体感してください。
弘法大師 空海生誕の地
第75番所、善通寺は日本最初の密教修業の場です。空海の出生の地でもあります。広大な境内は「伽藍」と称される東院、「誕生院」と称される西院の東西二院に分かれています。
金堂、五重塔などが建ち並ぶ「伽藍」は、創建時以来の寺域で弘法大師御誕生所としての由縁を今に伝えています。88カ所の霊場には、それぞれ空海ゆかりの深い歴史が刻まれています。
解き放たれる時間
88カ所、全ての札所を巡り終えることを結願(けちがん)といい、最初の札所に戻ってお礼参りを行うと円循環が完成します。「結願」とは、その名の通り、願いが叶ったという意味を持っています。お遍路を無事回りきれたという願いが叶った瞬間です。そして、四国霊場を巡り終えた「お遍路さん」は、空海が今も瞑想し続けているといわれる高野山の奥の院に「お礼参り」に行くのです。
古の時代から続く伝統と昔ながらの変わらぬ風景が残っている場所で、出会う人々のぬくもりを感じ、大自然の中でゆっくりと流れる時間に身を任せてください。一歩一歩を踏みしめながら歩き続けることで生まれ変わったような気分になれる体験が待っています。