2005年のファッションショーのときに制作された友禅染の打掛である。長く垂らした注連飾り、門松、羽子板、羽根、鞠、鏡餅と、お正月にちなんだモチーフがふんだんにちりばめられためでたいもの尽くしの図柄である。江戸時代から現代に続くお正月の日本人の暮らしぶりが1枚の着物で表現さ
れているかのようだ。歌舞伎の衣装の中でもひときわ豪華絢爛な江戸歌舞伎を代表する 『助六由縁江戸桜』 の花魁 揚巻の衣装を再現しました。 花道から花魁道中で登場するときにこの豪華絢爛の衣装を着て歩き、 観客はその美しさに魅了された。歌舞伎の世界では、女形といって男性が女性を演じる。揚巻を演じることができるのは、 最高峰の女形だけである。 粋でカッコいい助六がこよなく愛した揚巻は、江戸幕府公認の遊郭、 吉原の中でNo.1の花魁
で、美貌と気品と知性を兼ね備えた江戸庶民の憧れの存在であった。 江戸時
代の吉原はトレンドの発信スポットであったのだ。
*この着物は有名な舞台・ファッションショーで使用されたものである。
Art
観客を魅了する豪華絢爛な衣装
Artist
世界を舞台に日本の美を発信し続ける
千地 泰弘
22歳の時に、仏教画家の父親とともにロサンゼルス西本願寺の大壁画を3年がかりで制作。このことが創作活動の原点となる。
京都で京友禅に出会い、友禅作家として歩み始める。
ベルギー国立バレエ団の衣裳を三宅一生・毛利臣男とジョイント制作。
以後、舞台衣装デザイン、歌舞伎の衣装などを制作し、洋の東西にかかわらず挑戦を続け、世界を舞台に日本の美を発信し続けている。
Art Style
技術を磨き上げた職人たちが一つの生地を創る
友禅染
着物は、一枚の長い布地である。その長い絹の布地に筆を使い、模様を描き染める技法が「手描き友禅」である。手描き友禅は多くの工程によって成り立ち、それぞれの技術を磨き上げた職人たちが、一つの生地を作り上げる。
デザインから最後の染め上げる工程までを友禅作家・千地泰弘が指示を出していく。
デッサンと同じで、正面から見た形の中ですべて自分の中で空想して描く作業から始まる。ただ平面に描けばいいのではなく、平面に立体的に描くという作業、完成した着物を着たとき、どの絵柄がどこに来るかを考えながら平面に描いている。
まずは、布を選ぶ。反物選びで染の仕上がり、表現は大きく変わる。そしてデザイン、原寸大の草稿。次に配色を決め、最後にどんな染め方をするか、染め方を決めていく。次に染の工程に入る。千地が描いた通りになるまでには、多くの職人たちと一心同体でなければならない。
Roots
日本の伝統的な模様染色法
「友禅染」とは、日本の伝統的な模様染色法である。多彩で絵画調の模様をきものに染め表す友禅染めは、町人文化の栄えた江戸時代の元禄期(1688~1704)に開花した。この頃京都の扇絵師・宮崎友禅斎(みやざきゆうぜんさい)の描く扇絵が人気を集める。人気絵師だった友禅斎の描く画風を着物の意匠に取り入れ模様染めの分野に生かされていく。「友禅染」の誕生である。京都で作られる京友禅、金沢で作られる加賀友禅、東京で作られる江戸友禅が三代友禅と呼ばれているが、この中で一番最初に誕生したのが京友禅である。色数が多く華やかな手描き友禅は、町人文化が栄えた江戸時代(1603年~1868年)に最も栄えた。
京友禅の特徴は、職人による完全分業制である。それぞれの専門の職人たちの手により、一枚の着物が出来上がる。自然文様や有職文様(平安時代以降の公家社会で、その装束や調度、建築内装などに用いられた伝統的な文様)などの華やかなデザインが多く使われており、刺繍や箔を使った豪華な見た目が特徴的である。
千地泰弘は、友禅染を洋服地の世界で活かし、舞台衣装などを数多く手がけてきた。着物は絵画として表現する独特の美があることを発信し続けている。