茶釜は、茶室に風雅な空気を演出し、お茶を点てるのに欠くことのできないお湯を沸かすという重要な役割を担っている。
「わびさび」という、極めて日本的な特色をもつ、 鉄の芸術である。 茶釜の魅力は、釜の姿、文様などの造形美の魅力である。 彼が制作する茶釜の最大の特徴は、山から切り出した砂から砂鉄を取り出し、 製錬した日本古来の鉄 「和鉄 (わずく)」を使用していることにある。 「和銑」 で制作された茶釜は錆び (腐食)に強く、 抜群の耐久性を持ち、 400年以上の耐久力を持つ。 何より沸かしたお湯がおいしくなる。
本作品は、日本古来の文様 「鱗紋」 を様々なパターンで釜の中に投影している。
釜の両側にある釜の持ち運び用のとっての部分(鐶付(かんつき))は波のような鱗紋をデザインしている。桃山時代 (1573年から江戸幕府が開かれた1603年までの30年間) の鐶付(かんつき) にこうした鱗紋が使用されていたが、当時の鱗紋がまっすぐであった。
常に新しい感性で彼にしかできない茶釜を制作している。
茶釜は使えば使うほど色の変化がでる。 道具を保持することの誉れを感じることができるだろう。
Art
常に新しい感性で制作する
Artist
人の心を和ませる釜
長野 新
人間国宝の祖父を持つ釜師の三代目。
一度は途絶えた日本古来の技法で製練した鉄「和銑(わずく)」を使った茶釜制作技術を復興。独創性あふれる作品の発色や使い
込んだ時の金味が見る人の心を和ませる。
伝統の技を受け継ぎつつ、日々アップデートしながら未来へと続く作品を生み出している。近年は、茶釜の枠を超え、アーティストとして「和銑(わずく)」による現代造形作品を生み出している。
Art Style
思いと技術が重なり100%に
金工
茶釜は、14世紀頃には天明(てんみょう)(栃木県佐野市)、芦屋(あしや)(福岡県芦屋町)が主な生産地であった。錆びに強い「和銑(わずく)」で造られた茶釜は、時を経ても多くの茶人に愛されている。茶釜は、数ある茶道具の中でも特別な位置づけがされている。茶窯の魅力は、釜の姿、鐶付(かんつき)、文様などの造形美と釜膚にある。溶接技術、鋳型を作るための技術など様々な技術が必要になる。自分が作りたいものへの思いと、その思いを叶えるための技術が重なった時に100%のものができると長野新は言う。伝統を継承するだけでなく、自分の見たもの、感じたこと、影響を受けた景色や場所などをイメージ化して作品に投影している。
Roots
和銑から現代造形作品を
和銑(わずく)は古来、山から切り出された砂鉄を村下(むらげ)と呼ばれた作家が鑪(たたら)で製錬した地金で江戸後期に海外の鉄鋼石が輸入されるまで国内唯一の鉄として使われていた。
茶釜だけではなく、刀剣・鎧・鉄砲・釘・蝶番・金具など鉄製品はすべて和銑でできていた。
海外との交流が盛んになり、明治以降は、鉄鉱石を原料とした「洋銑(ようずく)」が導入され、大量生産に不向きな「和銑(わずく)」は姿を消していく。長野新の祖父である初代長野垤志(ながのてっし)は、日本中の古釜の研究をし、『茶之湯釜全集』全10巻を出版。その功績が認められ重要無形文化財保持者(人間国宝)となる。すでに技術が途絶えていた日本古来の鉄「和銑(わずく)」を何年もかけて復興し、形にする。1972年「和銑(わずく)」による茶の湯窯の造り、研究、販売をする長野工房を初代長野垤志(てっし)(重要無形文化財保持者))と二代長野垤志の2人で開始。長野新は三代目として茶の湯釜造りを中心に現代造形作品を生み出している。